年月日 平成19年6月2日(土)〜3日(日) 天候 晴れ 場所 長野県駒ヶ根市 ルート (1日目)しらび平〜千畳敷→(10分)→千畳敷カール→(70分)→乗越浄土→(5分)→宝剣山荘(泊)
(2日目)宝剣山荘→(15分)→中岳→(40分)→木曽駒ヶ岳→(30分)→中岳→(15分)→宝剣山荘→(5分)→乗越浄土→(40分)→千畳敷カール→(15分)→千畳敷〜しらび平
歩行距離(5.5キロ)、所要時間(4時間30分)その他 もう残雪も溶け、千畳敷カールには花のシーズンがと思っていたら、現地はまだ2mもの残雪に覆われている事実を知り、急遽冬用の装備で出かけました。宝剣岳を眼前に、八丁坂から乗越浄土への急斜面はまだ全面雪のスロープで、アイゼンが手放せない山登りとなりました。木曽駒ヶ岳はたおやかな山容に似合わず急勾配で、アイスバーンに苦しめられました。何と言っても極めつけは乗越浄土から千畳敷カールへの下りで、まるで垂直に切り立った雪の斜面を下るのですから、恐怖心と筋肉疲労に苦しめられました。とても初級とは思えない雪山登山でしたが、美しい中央アルプスの眺めと相俟って無事下山できた喜びで満足感に溢れています。
技術も体力も無いのに、果たしてどの程度の山まで登ることが出来るのかと、とりとめも無く考えてしまうことがある。当たり前であるが、北ア、中ア、南アの3000m級の高峰にチャレンジするのは、今の私にとっては自殺しに行くことに等しいので諦めることとするが、探してみると頂上直下までロープウェイで運んでくれて、高低差も少ないため初級、中級程度の技術と体力で登ることができる高山がある。その名を中アの最高峰「木曽駒ヶ岳」(2956m)といい、長野県上松町、木曽町、宮田村の境界にそびえ立つ日本百名山の名峰である。500円玉貯金がある程度貯まったので、今日は山小屋泊まりで、社員のS君と共に木曽駒の山頂に挑んでみることにする。
ところが、出発の前日、ツアー会社の添乗員Aさんから連絡が入り、現地は積雪2メートル、気温5℃という思いもよらない厳しい現実が告げられる。急遽装備を春用から冬用に変え、ズッシリと重くなったザックを目の前に少しく不安がよぎる。果たしてS君は装備が間に合うだろうか。
新宿でS君と待ち合わせ、7時15分発のツアーバスに乗り込む。参加者は21名で珍しく男性が多く、女性5名に対し男性は16名である。山小屋泊まりともなると、やはり女性はいろんな面で敬遠されるからであろうか。バスは若干渋滞に巻き込まれながらも、ほぼ順調に中央高速を駒ヶ根インターを目指して走り続ける。途中で2回ほどトイレタイムを取り、駒ヶ根インターを降りると、C社が提携したドライブインで昼食を取り、身支度を整える。
昼食を終え再びバスに乗り込み駒ヶ根高原へ向かうが、駒ヶ根高原からロープウェイ乗り場のある「しらび平」までは、観光地のマイカー規制のため、また別のシャトルバスに乗り換えなければならないのだ。「しらび平」着は丁度12時。「しらび平」からは更に駒ヶ岳ロープウェイに乗り、中央アルプス宝剣岳(2931m)直下の通称「千畳敷カール」まで高低差950mを僅か7分30秒で一気に駆け上がる。
ロープウェイを降りると標高2612m地点の「千畳敷カール」は左程寒くはないが、添乗員のAさんの話の通り辺り一面ぶ厚い残雪に覆われている。目の前の雪を被った宝剣岳は我々を嘲笑うかの如く壁のように立ちはだかっていて、見渡すと、無雪期は岩場である八丁坂から乗越浄土(のっこしじょうど)までの急斜面は全て雪に覆われている。果たして私の技量で登れるのだろうかとかなり不安になってくる。その雪の急斜面に取り付いて登っている登山者が大自然の中では蟻のように小さく見えて、人間の余りもの非力さ無力さを感じてしまう。
私もS君も靴にアイゼン(氷や氷化した雪の上を歩くために用いられる靴底に装着する金属の爪のこと)を装着し、ストレッチ運動をやった後、ガイドのSさんの後に続きスタートを切る。まずは、夏になると高山植物の咲き乱れる「千畳敷カール」の中を10分ほど横断する。残念ながら期待していた高山植物は今はまだこの雪の下2mで眠っているのだ。
さあ、ここからは八丁坂を頂上方向へ向かう。見上げると気の遠くなりそうな雪の急斜面が広がっている。ここから乗越浄土まで300mもの雪の急斜面を直登しなくてはならないのだ。かなり不安であるがガイドのSさんの後をひたすら付いていくしかない。一歩一歩着実にアイゼンで雪を削り足を固定させ体を引き上げる。いわゆる腐れ雪で踏ん張りが効かず、ズズズッと滑り落ちることもしばしばだ。上を見る余裕など無いないまま、この繰り返しで兎に角登り続ける。ガイドのSさんから登山技術のレクチャーを受けながらゆっくり登ったせいか、心配された動悸も息切れも大したことなく、汗まみれにはなったが、どうにか所要時間1時間10分でこの雪の壁を登り切り乗越浄土へ到着した。振り返り見下ろすと、よくぞこんな雪の壁を登ってきたものだと思われるほどの急斜面である。明日はここを下ることになるのだが、スキーならまだしも果たしてアイゼンだけで降りられるかどうか心配である。
乗越浄土から今日宿泊する宝剣山荘は目と鼻の先である。投宿は2時半。部屋は6畳一間に5人が詰め込まれる。5時半の夕食まで時間はたっぷりあるので、S君と登頂を祝し食堂で乾杯をする。ちなみに生ビールは800円であった。呑んでいるうちに、今までぶ厚い雲に覆われていた山頂付近の雲が取れ、青空が見え始めたのでカメラを持って急いで表に飛び出す。
外に出てみると息を呑む美しい光景が目の前に広がっている。真っ青な空と白い雲の中に浮かぶ雪を被った荒々しい山並み。暫しその素晴らしい大パノラマに見惚れてしまう。見回すと、東に伊那前岳(2883m)、南に宝剣岳を始め、檜尾岳(2727m)、熊沢岳(2778m)、空木岳(2863m)などの雪を被った中央アルプスの勇壮な山並みが連なっている。眼下には駒ヶ根の市街がうっすらと眺められ、今、自分がとんでもない高所に立っていることを実感する。
夕食は5時半からとなる。お世辞にも美味いとは言えないが、物資をヘリコプターで運ばざるを得ない山小屋だから贅沢は言えない。しかし、食事を終えても何もすることがない。S君は早々と床に入ったようだ。私は食堂で暇つぶしに受信状態の悪いTVを観ていたが、消灯が8時なので、NHKのニュースが終わった7時半には床に入ることにした。明朝はご来光を拝むため4時に起きるつもりだが、それにしても寝るには余りにも早すぎる。まだお子様の時間ではないか。そんなことをつらつら考えている内に、疲れからかいつしか深い眠りに入ってしまった。(続く)